No.2 「たまごっちの話」
今回は、前回ご紹介した吉田先生の提言
「絶対に押さえるべき8つのポイント」の中から
「4.特許の早期審査の活用を!」と「6.意匠権の緊急獲得を!」
の話に関連した実際の話をご紹介します
「たまごっち」と特許
弁理士 吉田 芳春
意外に思うかもしれませんが、たまごっちなどペット育成ゲームの基本特許といわれるものは、実はカシオ計算機から電子手帳中のゲームとして特許出願されています(特開平7-160853)。具体的には下図のように植物が示されており、植物の育成過程が、与える水、光、肥料の量に応じて変化して表示されています。育てる側は、何をどれくらい与えるかによって変わる成長の度合いを画像で見ることができるため、より現実的な感覚で植物の育成が楽しめます。この特許出願は、保護対象として「植物を含む生物」と記載しているために、現段階ではたまごっちも権利対象の範囲に含まれていることとなります。
量\要素 | 水 | 光 | 肥料 |
---|---|---|---|
無 | |||
少 | |||
普 | |||
多 |
M | 画像 |
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たまごっちがカシオの特許侵害に当たるかどうかの論議は今後の経過を待たなくてはなりませんが、バンダイではカシオから何らかの許諾を受けているのではないかと思われます。そもそも、「育成ゲーム」という点では、カシオの電子手帳以前にもパソコンで金魚を育てるゲームが発売されており、どこが基本特許を持っているかについては不明確です。ちなみに、カシオ計算機はアメリカでほぼ同じ内容で特許取得しています(usp5,572,646)。
たまごっちの爆発的なヒットにより出された類似商品は国内だけでも30種類とも40種類ともいわれています。特許庁では、審査期間を今までの1/2から1/3に短縮して権利化を早める早期審査制度を導入していますが、知られていないせいか年間利用率が2000件弱と低い状況です。この早期審査制度は、今までは出願から1年半経過後(出願公開後)に約3ヶ月程で特許審査してくれましたが、現在では出願公開前でも直ちに特許審査するよう改正されたので、ぜひ利用すべきです。
たまごっちはバンダイから外観のデザインが登録出願されていますが、97年6月に意匠登録されました。この意匠権も緊急審査により発生しています。「たまごっち」というブランド名は「たまごうおっち」という名称から進化したもので、現在商標審査中です。
またバンダイは、特許権や意匠権の発生が遅いために、著作権と不正競争防止法を利用する戦略に切り替えて類似品の輸入・販売差し止めの仮処分を勝ち取りましたが、引き続いて97年5月に起こした損害賠償訴訟での判決は今年の秋には出ると見られており、今後の類似品を巡る訴訟の流れを左右するものとなりそうです。これに関連して注目されていた損害賠償額の引き上げ法案は今国会への提出が見送られました。日本は平均で米国の約250分の1の低賠償額のままです。
ところで、少し話はそれますが、やはりカシオ計算機から電子手帳のゲームとして、お見合い機能を持たせた特開平8-309032号が出願されています。成長させたペット同士をお見合いさせ、成長過程でのデータに基づき相性を診断し、お見合い成功の場合には両者の子供のキャラクター画像が合成により表示されます。他の電子手帳のペットとお見合いさせることも可能です。たまごっちに限らず育成ゲーム全般に影響力を及ぼすと考えられます。
平成10年3月発行
アトムニューズ100号から転載