素材を知る「鉛」

数奇な運命の果て

鉛といえば子どもの時から身近な存在である鉛筆が思いうかびます。鉛は紙や皮の上に文字を書くことができたので、古代ローマ時代から筆記用具として使われてきたことが語源となって鉛筆と呼ばれているのですが、今では鉛筆に鉛そのものは入っておらず、黒鉛と粘土を混ぜたものを使います。その昔はそのまま鉛の原石を使用していたため鉛の中毒患者が出たようです。
鉛といえば、だれもが身近なものはレントゲンの時に放射線技師や患者などが身につける防御衣ではないでしょうか?鉛は放射線を遮断するのに有効な素材として扱われています。
では、その鉛とは一体、どのような好物なのでしょうか?なぜ鉛は放射線を遮断できるのでしょうか?
その疑問の答えは比重にあります。比重とは素材の密度のことで、鉛は極めて比重が高く密度も高いため、放射線をブロックすることができるのです。また、少しの量でもとても重いので、その性質を活かし、釣りの重りにも使われています。
私が鉛に特に興味を持った理由は、ウランから鉛への変化の過程にあります。ウランはそのままにしておくと長い年月をかけて放射性壊変ほうしゃせいかいへんという内部破壊をくり返して崩壊し変化していきます。大まかに説明するとウラン(238)→トリウム→ラジウム→ラドン→ポロニウム→鉛(206)に変化し、安定して落ち着くのです(実際にはウラン(238)の半減期は約45億年ですから破壊の過程を十幾つも経て変化し続けた産物が現在の鉛ということです)。
福島の原発で作業員が身につけ放射線を防いでいる鉛の板も、もとは原子力のもとになるウランから変化してできた鉛だと思うと何かの因果を感じるのは私だけでしょうか。

出典:アトムニューズ193号 8ページ
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