素材を知る「ステンレス」

魔法の皮膜クロム

ステンレスは英語でstain(汚れ・錆)less(無い)、つまり錆びにくい鋼のことです。鉄を主成分(50%以上)とし、クロムを10.5%以上含む特殊鋼をステンレスと呼びます。クロムはクロムメッキなどにも使える常温で安定した銀白色の金属で、他の金属との組み合わせが簡単にできる金属です。
1912年にドイツのエドワルド・マウラーとベンノ・シュトラウスがクロムとニッケルを含有するステンレスの製造特許を取得しました。では、なぜステンレスは錆びにくいのでしょうか?本来、金属は大気中の酸素が触れることにより酸化する(錆びる)といった現象が起こります。ステンレスも同じように大気中の酸素と金属の元素が結びつき、酸化物として錆が発生しますが、その表面にクロムを多く含んだ非常に薄い皮膜(不動態皮膜)をつくることにより、錆の原因となる酸素から鋼を守るステンレスのバリアーとなるのです。
とはいえ、ステンレスといえども、傷がつけば表面の皮膜が傷つき破られ、錆が発生するのではないかと思われるかもしれません。
ところが、ステンレスの不動態皮膜には自己修復能力がそなわっているため、ほとんど錆びないのです。つまり、傷ついたステンレスのむき出しとなったステンレス素地とクロムが再度大気中の酸素と結合し、クロムを含むバリアーが再生されるので、ほぼ無限に再生され続けるのです。そんな無敵と思われるステンレスでも海水のような塩素には弱く、長い時間塩素成分の水に浸すと塩素に不動態皮膜が破られ、自己修復が間に合わず、局所的に浸食されることがあります。

出典:アトムニューズ195号 8ページ
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